監督奮闘記 2013
 <福島 生きものの記録> 第2作目の狙い
 

 昨年、被曝地福島へ10数回通った。手探りの連続だった。訪ねた地域は6市町村。最も多く足を運んだ南相馬市ではツバメの喉に白斑のある個体を発見した。チェルノブイリで放射能の影響と判断されたツバメが早くも2年目で出現していた。キジ、イノシシ、ニホンザルは住民が消えた山里に出没、わが世の春を謳歌するように振舞っていた。だが、そこはいずれも放射性物質の高線量地帯だった。
 浪江町にある牧場では、国の殺処分指示に抗して被曝した和牛、300数十頭を育てていた。代表の吉沢正巳さんは、を粗末に扱う国に激しく抗議を発していた。サポートする女性たち。希望の牧場と名づけられ、その輪は次第に広がってがっていた。一方、その牧場の牛たちの体にも謎の白斑が見つかった。
 川内村ではアカネズミ、モグラの捕獲調査に同行した。アカネズミの筋肉中に蓄積されたセシウムが15,00020,000ベクレルという高濃度の個体もいた。
 唯一入れた警戒区域の富岡町ではセイタカアワダチソウの異常繁殖、白昼堂々道路を闊歩するイノブタ家族、捨てられた猫、人間不信に陥った犬などを目の当たりにした。最も驚いたのは野生化した離れ牛の集団。われわれを睨みつけ、いまにも襲いかからんばかりの姿勢で身構えていた。   

 
さて、2作目だ。<シリーズ 1>のサブタイトルは被曝だった。<シリーズ 2>は異変。事故から3年目、放射能により被曝した生きとしいけるものたちの被害現象はこれからさに増えると予感する。

撮影を再開したのは今年4月。ツバメがやって来る季節に合わせて。案の定、白班個体が次々に見かった。日本野鳥の会との同行調査で。チェルノブイリで長年動物の調査を続けてきたアメリカの科学者、テモシィー・ムソー氏はすでに福島の浪江町、飯舘村などで調査に着手している。そのムソー氏はこの2年間で野鳥や昆虫の数が激減しているという。強力な助言者の出現だ。
希望の牧場では新しく斑点牛が見つかった。体全身に謎の白斑が広がっていた。獣医師ももはや放射能の影響を疑わざるを得ない状況にある。

川内村ではイワナ、ヤマメなど淡水魚の調査が行われた。国や県が腰を上げないのに業をにやし、渓流釣りの愛好家たちが立ちあがった。釣り上げた魚を線量計測器で調べたところ、昨年より数値が下った河川もあったが、いまだ数百ベクレルのセシウムを蓄積しているイワナ、ヤマメが生息している渓流もあった。
 昨年、琉球大の研究チームによる英文の論文発表があったヤマトシジミというチョウの異常は、内外で話題を呼んだ。この研究チームの取材も予定している。
 今回最も注目しているのがニホンザルだ。人間に近いこの哺乳動物への被曝はどうなっているのだろう。日本獣医生命科学大学チームの調査により、福島市内の森で被曝したサルの放射性セシウムの筋肉中濃度は土壌汚染の高いところほどその影響を受けていることが解かってきた。立ち入り禁止区域では現在も10,000ベクレルを越えている可能性があると推測。一方、体内の白血球が減少しているサルもいるというから脅威だ。

       
   異常に成長したたんぽぽ  サルの親子  
 2作目で、これらの実態をどこまで描けるのか、それは正直解らない。ただ言えることは、被曝した生きものたちの事態が好転しているとはとても思えない。森林地帯はいまだ除染の対象になっていないからだ。 カメラを持ち込み、撮影をつづけるしかない。その覚悟である。
 第1作目では友人・知人はもとより、情報を見聞きした数多くの方から支援の浄財をいただいた。また、上映会ではたくさんの励ましのメッセージ、示唆に富んだご意見を寄せてもらった。
 2作目の製作にあたり、この場を借りてお礼を申し上げます。 深謝。
2013年9月  
映画監督 岩崎雅典 


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